詩月は高鳴る思いと共に、緊張が溶け、舞台の袖に引いた途端、体の力が抜け沈むように座りこんだ。



「ったく、あれほどの演奏をした奴が何てざまだよ」


詩月の肩を安坂が、軽く叩いた。




「お前の後に演奏なんて、可哀想にな」




早々に演奏を終えた安坂は小さく溜め息をつき、口角を上げた。



「ほら、」



安坂は、さっと手を伸ばした。



「立てるか」



座り込んだ、詩月の体を引き上げた。



詩月は肩を忙しく上下させ、胸に手を押しあて呼吸を整える。




 安坂に体を支えられロビーに出ると、客席側の扉を開けアランが出てくるのが見えた。



アランは肩に、黒い革のケースを抱えている。



「間崎准教授」


安坂が声をあげる。




アランは振り向き、穏やかな笑顔を見せた。