「大丈夫か?」

詩月は安坂が訊ねると「……大丈夫です」と、支えた手を払った。


「凄い拍手と歓声……こんなに観客が興奮してる演奏の後に……。誰かの演奏を聴いて感動したことはあったけれど、こんな……」

詩月は言葉を棄てるように呟き、頼りない足取りで舞台に出ていった。

舞台中央まで、何とか歩き、客席に向かい一礼する。

ゆっくりと――。


落ち着け、落ち着けと言い聞かせるが、胸の鼓動が治まらない。


――舞台に上がり、緊張したら知っている顔を探しなさい


詩月はリリィの言葉を思い浮かべる。

目を凝らし、客席をみつめる。

どんなに探しても、リリィはもういない――。