ヴァイオリンコンクール本選。


詩月は、予選通過者の演奏に耳を傾けていた。



自分の出番が近づくにつれ、緊張が高まり不安になっていく。



安坂がいつになく弱気な詩月の様子に気づき、声をかける。



「おい、ロビーへ出て深呼吸してこい」



安坂は詩月の腕を掴み、ロビーへ連れ出す。



「!?――安坂さん」

詩月は頼りない声を出す。



「お前さ、今日まで練習してきたんだろ。
自分の実力信じないで何を信じるんだ」


安坂は厳しい口調で言う。



「今日はリリィのためにヴァイオリンを弾くんだろう? 
間崎准教授にリリィの思いを伝えるために、あの曲を弾くんだろう!しっかりしろよ!!」



安坂は震えている詩月の手を握りしめた。