「伝えるんだよ、しっかり届くようにな」


安坂の声に、力がこもる。



「……自由曲に『懐かしい土地の思い出』を弾こうと思います」


詩月は、安坂を真剣な眼差しで見つめる。



「追悼の……」



「この指で今、弾ける最善の演奏をしたい。
そして、リリィとの思い出の曲を……『懐かしい土地の思い出』でしか、思いは伝わらない気がするから」



詩月は息で指を温めながら頷いた。