「ショパン、思い出すな。去年の今頃だったよな。お前が屋上で泣きながら、ショパンの『別れの曲』をヴァイオリンで弾いていたのは」



「そう、でしたね。
音楽をやめなくて良かったって思います」



「あの時、お前に言った『愛して伝える音楽を奏でなさい』俺にとっては、おまじないみたいなものだ」



安坂はそう言い、小さく笑った。



「『希望っていうのは絶望にうちひしがれ、落ち込んでるだけでは生まれない。絶望から這い上がろうと懸命に、足掻いて頑張ろうとする意志と努力がなければ生まれないもの』安坂さんの叱責、響きましたよ」



「それは、間崎准教授からの受け売りだ」



「伝わるんだろうか……この指で……」



詩月が頼りなく呟く。