「おい、周桜! 間崎元准教授、本選を聴きに来られるらしいぞ」



「本当ですか!」



すっかり陽が落ち、闇に浮かび上がる白亜の校舎から出てきた詩月に、安坂の声が響いた。



「あの人は、マスターに『お前のヴァイオリンの音をもう1度、聴きたい』と言ったそうだ」



「はっ?」



「ったく。お前は、あの人に何をしたんだ?」



「何も……手紙を渡しただけですよ」



「手紙!?」



「あの……白い猫の秘密が書かれたリリィの手紙」



「そんな切り札、いつ手に入れてたんだ………お前には驚かされる」



詩月はすまなさそうに笑った。



「今までレッスンか?」



「ええ、文化祭のピアノ演奏の……。VIPが結構、見えるそうで」



安坂がフッと息をつく。