詩月は「生きている」という歓喜は、それほどまでに強烈に胸に迫ってくるものだと再認識する。




音、音、音――。


様々な音の洪水が聞こえてくる。



一瞬、一瞬、絶え間なく。



 耳は魂を手放して尚、三途の川を渡り切るまで音を聞き続けると云う。



生き物の最期の瞬間までも、音を捕らえるのだと。




「生きたい、生きるんだ」という執念が、最期まで耳に思いを留まらせているのだろう。



詩月は執念だなと思う。




 頭の中で、ベートーベンの「運命」が奏でられる。



リリィのレッスン日記。

最後のページを捲ると、短歌が記されていた。





「生きている。
ただそれだけで今はいい。
明日吹く風はだれも知らない(金子大二郎 作)」