ヴァイオリンのレッスンを終え、ビルの入口を出る。



夜風が心地好い。




商店街の角を曲がると、白髭を蓄えた恰幅のよい人形が立っている。



それを横目に、差し向かいの通りに抜ける。



窓に蔓を絡ませた、小さな喫茶店に入る。



鮮やかなブーゲンビリアが、淡い灯りに照らされている。



カウンターの奥の手にアップライトのオールドピアノが、私はここよと主張している。



 レッスンの後、いつも一息つく喫茶店。



空調のあまり当たらない席につく。



座る席は決まっている。



ピアノ奏者の表情や指の動きが、1番よく見える席だ。



 マスターの妻だというピアノ奏者は、弾き語りもする。



ピアノの腕はイマイチだが、歌の方は味もあるし、胸に染み入る癒し系の歌い方をする。



彼女が十八番に、歌う歌がある。