母親が先ほど弾いていたヴァイオリンのケースを開け、そっと小さな袋を取り出した。




「わたしがクレーメル国際コンクールに出場した時に使った弦。コンクールで使って。
きっと良い演奏ができるわ」



「……母さん」



「ファイナルまで使った弦よ」



母親は満面に笑みを浮かべ、詩月の手に弦の入った袋を握らせた。




 抑えていた感情が溢れ出す。



「大事に使わせてもらうよ」




堪えていた思いが一気にこみ上げ、目頭が熱くなり、涙がこぼれ落ちそうだった。




弦の入った袋をケースに入れ、ヴァイオリンを仕舞う。