金木犀のアリア

母親の目に涙が滲み、つぅうと頬を伝った。




……母さん!?




詩月の指が乱れる。




ちゃんと弾かなきゃ……と、詩月は気を引き締め、演奏に集中する。




詩月はヴァイオリンを弾きながら母親との距離が、縮まっていくのを感じた。





――心を伝えなさい。貴方の心で弾きなさい




リリィに教えられた言葉が、頭の中に響いている。




先日、アランからも言われた言葉だ。




「母さん、伝わってる?」



詩月は尋ねてみたくなったが、今は言葉などいらないと思った。




時々、指に痛みが走る。


ヴァイオリンのレッスンをしてきた後だ。



医者から言われた練習時間の制限は越えている。



それでも詩月は、この1曲だけは最後まで弾きたかった。