金木犀のアリア

詩月は日記の1ページ目を開いてみる。




レッスンの日時、その日のレッスン曲、課題、注意事項、事細かなその日の会話までが、詳細に記されている。



こんな些細な事まで……?

詩月は目が離せなかった。




生真面目で整った美しい文字がびっしりと、ページいっぱいに綴られている。




「貴方がヴァイオリンを習い始めてから、10年間のレッスン日記。
マメな方だったけれど、こんなにたくさんの記録を遺されていたなんて、頭が下がるわね」



「本当に……。あの人らしい。
レッスン中にもっと言いたいことも叱りたいことも、たくさんあっただろうに……。
いつも笑顔で、あの人の笑顔しか思い浮かばない……」



「包容力のある素晴らしい方だったわ。
演奏者としても指導者としても、お人柄も」