詩月は母親が何気なく弾く演奏や、彼女の教室に通ってくる生徒たちの演奏を耳コピーし、物心ついた頃からヴァイオリンを弾いていた。




リリィに「何か弾いてごらんなさい」と言われて弾いたのは、アヴェ・マリアだった。



その頃、詩月は教則本を見たことさえなかったし、知りもしなかった。



リリィは詩月が我流で弾き始めたヴァイオリン演奏を、唖然とした顔で聴いていた。




　その後。

リリィと母親が差し向かえで話した。

詩月はリリィの穏やかだが何処か厳しい顔と母親の申し訳なさそうな顔を見比べながら、黙って２人の会話を聞いていた。

詩月は今でもはっきりと覚えている。




リリィは不安で泣き出しそうな様子の詩月に、満面の笑みを称えた表情で「よろしくね」と言った。