「この人になら、不安な気持ちも辛い思いもわかってもらえる……」



溢れる思いが、自然と言葉になり、詩月の口から零れ出る。



「弾けない、……思い通りに動かない……思い切り練習できないことが……恐くて……辛くてたまらない。……コンクールも近いのに……」



堪えていた思いが溢れ、乱れる詩月をアランの腕が包み込んだ。



「音楽は技術ではない。練習量でもない、心だ。
弾きたいと思う心、伝えたいという心で演奏するんだ」




詩月の耳に穏やかだが凛とした、アランの低い声が染み入るように響いた。



詩月の胸に、リリィの教え、リリィがいつも言っていた言葉、アランとリリィの音楽への思いが流れこんできた。



詩月は2人の見つめていたものが、同じだったことが嬉しかった。



「音楽は心で弾くもの」という聞きなれた言葉の響きに、詩月は胸が熱くなっていくのを感じた。