「あの時から、貴方にはわかっていらしたんですか?……この指が……」



「あの弾き方で、あれほどの演奏をする。……リリィの心配が、ただの取り越し苦労ならと思っていた」



アランが詩月の言葉を遮り、先日よりも更に険しい顔で口を挟む。



「指に支障が出ていなければいいと思いながら、演奏を聴いていた」



詩月は右手で、左手を被い握りしめた。



「リリィはずっと、君を心配していた。君の指導方法に悩んでいた」



「!!……」



「あの曲を君が弾いていた時、リリィと共に奏でた『懐かしい土地の思い出』が、頭の中で鳴り止まなかった」



「……」



「君のヴァイオリンの音色は、……此処で聴いた以前から幾度も聴いていた。
君が街頭演奏を始めた頃、泣きながら弾いていたことも知っている」