その夜半から熱を出し数日、詩月は動けなかった。

 熱が下がった翌日。授業を終え、詩月は即行モルダウへ向かった。

──あの猫は貴方が来る日を知っている

カフェ・モルダウのウェイトレスが言った言葉が本当ならば、あの白い猫がモルダウに来ているかもしれないと思った。

 詩月は学校指定のコートの襟を立て、風が冷たい寒くなったなと足を速める。

カフェ・モルダウの前で、店の周りを探してみるが白い猫はいない。

扉開けると、珈琲の芳ばしい薫りに迎えられる。

まだ店内はガランとしている。

詩月は店内をレジの側、カウンター、ピアノの上下など目につく所を見渡し、背伸びしたり、腰を屈めたりして探ったが、猫は見当たらなかった。

カウンター越しに、マスターの声が聞こえた。

「君がこの数日、姿を見せなかっただろう、猫も来ていないよ」

詩月は小さく溜め息をつき、注文もせず席にも着かず、肩にかけたヴァイオリンケースを下ろし、ヴァイオリンを取り出した。

――せっかく行き先を突き止めたと思ったのに

 詩月が落ち込んだ気持ちを持ち上げながら、曲のイメージを膨らませ情景を思い浮かべ、ヴァイオリンを調弦していると、扉の開く音と共に、風鈴の音が鳴った。