金木犀のアリア

「貢、周桜くんは何故あんなにムキになったのかしら? あの噂……」



「郁、下手な詮索はしないことだ」



安坂は発作の治まった詩月から、指の診察結果を聞かされ、思う以上に深刻だったことに驚いた。



練習時間を半減しなければならないほどの状態で、コンクールに弾く曲をどう仕上げてくるのか――複雑な気持ちだった。


詩月は「緒方には指のこと、話さないでもらえますか」と付け加えた。



安坂はその思いを大事にしてやりたいと思った。



 理久は商店街の角を曲がり、白髭を蓄えた恰幅のよい人形が立っている店のバイトを終え、窓に蔓を絡ませた、小さな喫茶店に入る。



鮮やかな色のブーゲンビリアが棚に並び、カウンターの奥の手にアップライトのオールドピアノが置いてある。