詩月は、母親が自分自身を責めるように、「何故?」と問う姿に、あなたが自分を責める必要はないんだと、かけられない言葉を飲み込み、音を立てないように扉を閉めた。



 朝。

詩月は看護師が、丁寧に巻いたテーピングを外して、家を出た。


あれこれと執拗に問いただされるのが嫌だったし、質問に答えるのも億劫だと思った。



 詩月は親が著名なピアニストということもあり、何かにつけて噂されるのに慣れている。



……が昼休み。


「周桜くん。あなたが腱鞘炎かもしれないという話を聞いたんだけど、本当なの?」



郁子が、そっと詩月に耳打ちをしてきた。



「誰から聞い……」


ふいに答えて、不味いと口をつぐんだ遅かったことに気づいて、詩月は顔をしかめた。