朝から、どうも空気が違っている。


行き交う学生、話しかけてくる学生も皆がよそよそしい。


隙を見てはヒソヒソ話をしている。



 昨日、詩月が帰宅すると、母親はテーピングした手を見るなり顔色を変えた。


詩月の母親は腱鞘炎の辛さも痛みも、全てを知っている。

詩月は、テーピングした指を見ただけで何もかも見通している母親に、隠しだてしても無駄だと思った。

詩月は質問をされる前に、全てを伝えた。



母親はひどく悲しそうな顔をしたが、「無理をしないように」と言ったきり、他には何も言わなかった。



 詩月が夜中に珍しく目が覚め、キッチンに行き、水を1杯飲もうと母親の部屋の前を通った。

部屋の扉の隙間から母親が背を丸め俯き、声を押し殺し泣いているのが見えた。