病室を訪ねてきた彼女は、彼の左腕を見るなり、涙ぐんだ。


事故から1週間後だった。



「彼は……どうだった?」



凍ったような表情で彼は尋ねた。



「優勝したのよ、あの子。『ショパンの雨だれ』を弾いて」



「そう、良かった」



「これからが、大変かもしれないけれど……」



「あの子なら大丈夫だ。君の教え子だ」



「貴方は?」



「……」



彼女は、黙りこんだ彼に明るい声で言った。



「もう1度、貴方と『懐かしい土地の思い出』を弾きたいわ」


彼女は、満面の笑顔を称えて彼の手をさすった。



「傷が癒えたら、一緒に練習をしましょうよ」


「そう……だな」


彼は、ギブスで固定された指をまじまじと見つめながら、医師から言われた言葉を思い出した。