金木犀のアリア

ーーヴァイオリンの師匠の思い出の曲と言ってたな

安坂は、郁子から聞いた情報を思い返した。



ーー思い入れもある分、演奏にも磨きがかかっている。
こいつはコンクール本選で必ず強敵になる。いや、本命だ。



侮れない奴だと実感しながらも、安坂は小気味良い快感を覚えた。



重なり合う安坂の音を心地好いと感じながら、詩月はヴァイオリンを奏でる。



マスターから聞いたリリィとアランの思い出。


リリィは傷ついたアランを待ち続け、何を伝えるつもりだったのか?



優しかった生前のリリィが思い出され、溢れてくる思いに、涙腺が緩みそうになるのを詩月は抑える。




昨年の秋。

詩月は父親似の自分の演奏に悩み、暗中模索を繰り返し自暴自棄となり、ピアノを辞めたいとまで思い悩んだ。


出口の見えない闇の中、屋上で1人ヴァイオリンを弾いていた詩月に安坂が、コンクールで惨敗し落ち込んいた時、師事していた師匠に言われた事を話したのだった。