金木犀のアリア

言いかけて郁子は、何かを思い出すような仕草をする。



「どうかしたのか?」



詩月が、不思議そうに声をかける。



「そうだわ! 貴方が……あの猫が居るとき、いつも弾く曲。あの曲を彼が、何度か弾いていたのよ」



「そうなのか?」



詩月はサイホンを操作するマスターの顔を見る。



「アランとリリィは留学先の大学が一緒だったし、2人ともチャイコフスキーの曲が得意だった。
あの曲は2人の思い出の曲なんだ」



詩月の視線に気付いて、マスターは、学生時代を懐かしんだ。



「マスター、1つ聞いていい?」



「ん!?」



「アランとリリィは……ライバル以上の仲だった? その……」



詩月は核心をつけず口ごもる。