金木犀のアリア

リリィのご主人が亡くなった頃。2人は再会し、此処で学生達の演奏を聴き、音楽を語り、たまに演奏もしていた。本当に仲睦まじく過ごしていたよ」




詩月は、リリィの家の暖炉に飾られた小さな写真立てを思い出した。



あの写真に写る青年が、アランなのか? と。




「ところが……アランが出張先から戻る途中、事故に遭ってね」




詩月は、思わず身を乗り出す。




「左手に怪我をしたんだ。怪我は治ったものの、彼はヴァイオリンを元のようには弾けなくなったんだ。
リハビリも思うようには進まなくて、リリィの励ましでヴァイオリンの練習もしていたんだが、なかなか弾けなるようにはならなかった。
失望した彼は大学を辞め、此処にも来なくなった」