金木犀のアリア

「彼とリリィは、ヴァイオリンの良きライバルだった」



「あっ……」



詩月は、息を飲む。

リリィのお悔やみに行った日、リリィの娘から手渡された手紙を思い出した。




「2人は、学生時代に幾つかのヴァイオリンコンクールで優勝を競い、共に留学したんだが……。
留学期間を数ヶ月残し、リリィは家の事業が傾き帰国したんだ。
卒業後、政略結婚をさせられた。丘の上の豪邸の実業家とね。
けれど彼女は、結婚した後も音楽を諦めきれず、なんとか大学を卒業し、ヴァイオリンを教えていたんだ。
彼は……。アランは、留学期間を延長し帰国後。
さらに音楽を学び音大の講師になり、ヴァイオリン科の学生を指導していた。
10年ほど前だったかな。