高台から見える街並みと、遠く夕映えに光る海、この景色を眺めながら幾10年もの歳月をリリィは、どんな思いで過ごしてきたのか?

詩月は、夕暮れに染まりゆく風景を悲しいくらいに美しいと感じた。

そして、詩月はリリィの部屋に飾られていた写真立ての猫を抱いた青年と、寄り添うように写ったリリィの微笑みを思い浮かべる。

リリィの手紙を預かり、2人はよほど親しい間柄だったんだろうと思った。

だが……。

――写真に写っていた猫、青年が抱いていた猫、猫だ

モルダウに来る白い猫が重なり気になった。

足が自然と駅に向かう。

詩月は歩きながら携帯電話を取り出し、心配性の母に連絡を入れた。

──楽器店に寄って帰る。20時には帰るから

 詩月は普段、電車をほとんど利用しない。

母親の運転する車で、登下校の送迎もしてもらっている。

先天性の心臓疾患で虚弱体質。

もし人混みで発作でも起こしたら――それが常に頭の隅にあり、詩月は普段、公共の交通機関を利用する気にならないのだが。

「白い猫が電車に乗っていた」というカフェ・モルダウで聞いた話を頼りに、白い猫を捜してみよう、リリィの想い人かもしれない人が、白い猫につながっているのかもしれないと思った。