演奏の後――時々、指が強張ることがあるな。

……それに震えが収まるのが遅い。



詩月は指を広げ、曲げ伸ばしをしてみる。



「っ……つ」



指先から手首に向かって走る痛みに、思わず声を漏らす。


手にしていた、楽譜がはらはらと床に散乱し、詩月は膝をつき楽譜をかき集めた。



……この痛み!!



――詩月、それでは指を傷めてしまうわよ。

運指法をきちんと守って弾きなさい。



リリィの言葉が思い出された。



 練習が終わるたび、教則本を開き細かく丁寧に、運指法を説いたリリィの顔。


優しい微笑みの内に秘めた元師匠の心配。




大丈夫だ。



詩月は、どこかで自分だけは、そんな痛みや心配とは無縁だと軽々しく思っていた。