金木犀のアリア

そしてリリィは時々、暖炉の上の写真立てをみつめていることがあった。

セピア色をした写真。詩月は彼女と共に、写真に収まる猫を抱いた青年の和かな眼差しを、はっきりと憶えている。

 詩月は青年と彼女の詳しい間柄などは特に聞いたことはなかった。

彼女は、その青年が猫をとても大切にしていたと話した。

そして彼女が時折、詩月に弾き聴かせてくれた、「チャイコフスキーのヴァイオリン曲OP42ー3「懐かしい土地の思い出、メロディ」。

詩月は、彼女が優しく穏やかに弾いていた顔は、忘れられそうにないなと思う。

リリィはモルダウに春先まで時々、顔を出し学生達の演奏を聴いていた。

財閥に嫁いだリリィは、人望も厚かったし、交友関係も広かった。

訃報を知り、次々に訪れる弔い客で立て込んでいて、ゆっくり御悔やみの挨拶もままならない状態だった。