「その手紙の中に、貴方の名前があったの。母は貴方のことを写真立ての男性に、話していたのかもしれないって思ったの。あの写真は母が留学していた頃のものなの。あの男性は、母と一緒に留学していた人だと思うの。できれば、その手紙を写真立ての男性に渡してほしいの」

「僕が……ですか!?、写真の男性が誰かも、僕は知らないけれど」

「わからないなら、それでもいいの。でも、私が持っていても仕方ないものだから」

「……わかりました。預かっておきます。もし男性が、誰かわかったら渡します」

「お願いね」

詩月はリリィの娘が微かに微笑んだように思った。

 御悔やみを済ませたものの、詩月は真っ直ぐ家に帰る気にはなれず、かといって何処へ行くあてもなかった。

詩月は、リリィの娘から手渡された手紙をヴァイオリンケースの中に仕舞い、ゆっくりと坂道を下った。