空が茜色に染まっていた。

夕陽に照らされ光る海も、気品を称えた白い船も……。

 公園の木立の影から頼りなく、自信なさげに聴こえてくるヴァイオリンの調べが響いている。

 詩月は穏やかに胸の奥底までも暖たためていく優しい、それでいて物悲しい調べを「ひどく拙い演奏だな」と思った。

 聴いたことのある調べに、ふと歌詞を思い出す。


待てど暮らせど来ぬ人を
宵待草のやるせなさ
今宵は月も出ぬそうな
(竹久夢二 作詞)



 数年前。

詩月が美術館で鑑賞した大正ロマン漂う美人画は、モダンな中にも憂いを帯びた不思議な絵だった。

絵画と共に展示されていた蓄音機の前で、詩月が説明用のイヤホンに耳を当てると、流れてきた調べが「宵待草」だった。