緑川 龍太(みどりがわりゅうた)。


それがその人の名前だと知ったのは、気管支炎で入院した診療所で。


それは奇しくもあの人と初めて逢えた7月の初めの日。7月1日だった。


龍太さん……。


なんとなくあの人にぴったりだ、と考えては頬が緩んだ。


やっと名前を呼べる。


あの人じゃなくって、ちゃんと“龍太さん”って。


龍太さん、

龍太さん、

龍太さん。


あなたは今、どこで何をしているんでしょう?


わたしの事は知らないでしょうね。


でも、わたしは知っています。あなたのあたたかい笑顔を。


そして、知らない人でも助ける優しさがあると。あるおばあちゃんから聞きました。


わたしは……。


ただあなたに逢いたい。


一目だけでもあなたにわたしの姿を見てもらえたら。


清川 鞠というひとりの人間を、記憶に留めて欲しい。


ただそれだけを願います。





退院したわたしを待っていたのは期末テストだけど、ほたるや夏樹が勉強に付き合って先生も補習してくれ、なんとか無事に乗り越えた。


そしてぺんぎん屋でのアルバイトも再開し、もうすぐ夏休みに入る日曜日。


いつもの龍太さん探しをしていたわたしは、意外な情報を手に入れた。