その笑顔を見たのは、本当に偶然でした。 ほんの数秒間の邂逅(かいこう)。 つかの間の――。 濃い緑の夏草を揺らし通る赤い電車。 水辺の線路を滑るように通ったそれから見えた、笑顔。 鮮烈な夏の日差しよりくっきりとわたしの胸に焼きついて。 ただそれだけ。 それだけなのに。 わたしの全てを変えてしまったんだ。