移動教室にて、世界史の授業中。




目の前には大きな世界地図が広がっていて、
期末テストも目前のため、これまでの総まとめとして先生が重要な箇所を教えてくれている。


プリントも配られ、生徒たちはポイントとなるところにマーカーで線を引いたり、メモしている。


そんな中、私は一向に手が動かなかった……。


考えてたのはさっきの笹原さんとの事。







「理人に嫌われて欲しいの。 “アンタのことなんか、これっぽっちも好きじゃない!だからもう近づくな!”……ってね?本人を目の前にして言ってもらえさえしてくれればいいの。簡単でしょ?」




え……!!



そんなことを条件に出すなんて!!!




覚悟はしてたけど、まさか私が霧島くんを傷つけることになるなんて!!!!



「そ、そんなこと…!」


「 “できない!!” ……とは、言わせないけど?」


「っ!!」


「だぁ~って、里菜にケンカを売ってきたのはそっちでしょ?しかも、この里菜相手に…!」



笹原さんの眼が鋭くなる!



「で、でも……霧島くんを傷つけるような事、私には」


「だったらしかたないなぁ~。条件をのまないんなら、あなたの周りのお友達が傷つくかも?だけどぉ~。それでもいいのかなぁ?」




え………!



何それ!?



笹原さんはこっちを向くと、冷たく笑った……!



「やるの?やらないの?どっちなのよ……?」


「……っ。」


私は大きな選択を迫られていた!!



どうしよう!?



条件をのんだら霧島くんに言わなきゃいけない!!




でも、のまないなら……!!!





その時。





「あれ?咲希ちゃーん!」



私の後方から唯ちゃんの声が聞こえてきた!!


ま、まずい!!!



今は来ないで!唯ちゃん!!



思わずうろたえてしまう!



笹原さんはそんな私の様子を見て、こう告げた。


「もし条件をのむのなら、今日中に理人に “嫌い。二度と近づくな。” という意思をハッキリ伝えること…。」




え!!




今日中!!?




あまりにも展開が早すぎて返す言葉が見つからない……!



「いい…?期限は今日までだからね!そのへんを忘れないようにね?鳴瀬さん…?」





そ、そんな……。




そんなことって……!!





「咲希ちゃん、もしかして待っててくれ……、っ!!」


近くまで来ると唯ちゃんの動きが止まった!!


きっと、笹原さんの存在に気づいて萎縮しちゃったのかもしれない!


「あれ?もしかして~、鳴瀬さんのお友達ぃ?」





ドクン!






「は、はい……。そうです…けど……。」


「あなたも怪我とかには気をつけた方がいいよぉ?特に、階段とかぁ~??」





!!!!







キーンコーンカーンコーン




その時、予鈴が鳴った……。



「あ。里菜もう行かなきゃ!じゃあねぇ~~。」


そして笹原さんは、上機嫌でその場を去って行ってしまった……。





“期限は、今日まで”





「…………。」


「あの、咲希ちゃん?笹原さんと何かあったの…!?」


「…………。」


「咲希ちゃん……?!笹原さんに、」


「ううん!なんでもないよ!ただ落し物を拾ってくれたみたい!私、ウッカリしてて。あはは。」


「咲希ちゃん……。」


「ほら!私達も早く行こ?世界史テストの範囲広いから、困っちゃうよね!」


唯ちゃんはまだ心配そうな顔をして、こっちを見ていた…。







「で、世界史の期末の範囲は、前にも言ってある通り、中間の範囲も入るから、そこもよく勉強しておきなさいね!」


先生の声が教室中に響き渡る。


でも、先生の声は私には届かなかった。




この時、




私は一人、決断していた。






ちーちゃんや唯ちゃん…




周りの人達…






そして、霧島くん……




もう誰も傷ついていいわけがない!



苦しんでいいわけがないっ!!



そう思ったとき、私の中で結論が出た。



もう出すしかなかった!




苦渋の決断。





それは……




私の霧島くんに対する、この想いを封印すること…。




そして、霧島くんに別れを告げることを……!