好きなんだ、私は。



こんなにもあなたのことが。




霧島くんのことが。




友達としてではなく、



ひとりの男(ひと)として…。







「咲希!」


急に呼ばれて、ハッと我に返ると、目の前にちーちゃんがいた!!


「ちーちゃん…。」


「何度も呼んでるのに反応しないし、それにもうHRとっくに終わってるよ?」


え!?


教室を見渡すと、すでに先生はいなくなっていて、生徒もほとんど帰ってしまっていた……。



い、いつの間に!?



「咲希、なんかお昼から変だよ?急にトイレに行って帰ってきたら、ボーっとしちゃってさ…!」


「う、うん。そうだね!しっかりしなきゃっ!」


本当は体育館に行ってたんだけど、トイレへ猛ダッシュしたことになっている。


さすがに、あの話を全て話すのは気がひけちゃうし……。


あまりおおっぴらに話していい内容じゃないもんね。



「咲希……。昼間の話なんだけどさ、本当に何もされてないんだよね…?」


「え……。」


「そのさ……笹原さん達に変な嫌がらせはされてない……?」



うっ……。



それは……なんとも…。



実際、朝の下駄箱にゴミがあるという事実はあるけど……。



笹原さん達がやったという証拠は無いし。



それに……。



「どうなの?されてるの!?」


ちーちゃんに言ったら、きっと笹原さん達に文句を言いに行きかねない!


そんなことになったら、ヘタしたら標的がちーちゃんになっちゃう!


「咲希…?なんで黙ってるの?!……やっぱり笹原さん達に何かされ」


「なんもないよ!!平気!…だから心配しないで?」


私はちーちゃんの言葉をあえて遮り、笑顔で答えた。


「咲希……。」


それでもちーちゃんは納得していないみたいで、眉をひそめている…!


「ちーちゃん、考えすぎだって!何かあったらちゃんと言うから。あ!もうこんな時間!!ちーちゃん部活でしょっ?地区大会のメンバー決め、もうすぐだもんね!頑張って!!」


「咲希…。……何かあったら、絶対言うのよ!?約束だからね!!」


そう言って、ちーちゃんは荷物を持って走って教室を出て行った。



ごめんね、ちーちゃん…。



本当の事を言えない罪悪感と、言ってはいけないもどかしさに苛まれてしまった。






教室を出ると、部活のユニホームを来た生徒たちとすれ違う。


そんな姿を見て、私も自分に気合いを入れる!



さてっ!



私もこの後はバイトだし!



気持ちを切り替えなきゃっ!!


昇降口までくると、無意識に7組の下駄箱に目がいってしまう。



霧島くん、もう帰っちゃったのかな…?




好きだと自覚してからは、彼の存在が私の中で急速に大きくなっていく……。



明日、また会えたらいいな。



霧島くんの笑顔を思うと、胸いっぱいに温かさが広がってきて、自然と頬が緩んだ。




すると。




「久しぶり、鳴瀬さん。」



近くで穏やかな声が聞こえてきた!



「あ!ヤスさん…!」


「元気そうだね。なんか良いことでもあった?」


「え?な、なぜですか??」


「ニコニコしてたから。嬉しそうに。」





!!!





み、見られてたなんてっ!!



恥ずかしすぎるっ!!



何も言えず、その失態を隠すように熱くなった顔を伏せた……。


「アレ?違ったか?」


「い、いえ!そんなことは!あ、あの、ヤスさんはもう帰るんですか?」


これ以上訊かれたらボロが出そうになるので、話をそらした。


「俺は向こうの校舎の屋上で昼寝かな。今日は陽気がいいし。」



え!!



お昼寝!?



ヤスさんのビジュアルからして、まさかこれから日光浴をするとは思わなかった…。


改めて思うんだけど、ヤスさんって見た目と中身のギャップが激しいような……?



マイペースというか、平和主義というか。



そんなことを本人を目の前にして思ってしまった。



でもお昼寝かぁ~。



確かに、ポカポカ陽気で気持ちよさそう!



屋上ならなおさら………って、



あれ??



「でも、屋上って確か鍵が無いと入れなかった気がするんですけど?鍵借りたんですか?」


「あぁ。アレには、ちとコツがあんだよな!鍵が無くても開けられるやり方がさ。俺と理人しか知らないけどね?」


急に霧島くんの名前が出てきて、トクンと胸が高鳴った……!



「今度鳴瀬さんにも教えてあげるよ。……あ。どうせなら理人が居るときに驚かせるか!急に鳴瀬さんが入ってきたら、アイツびっくりするな!きっと。ハハッ」


「ふふ。じゃあ楽しみにしてますね。」


と、そう笑いかけて下駄箱を開けた。





え………!?






靴が……無い………!??





ローファーが無くなっている!!




私、違う人のところに入れちゃったのかな!?



でも下駄箱の扉には名前が明記されてるし……!!



そんなはず無いよ!



私は信じられなくて、もぬけの殻になった自分の下駄箱をただ見つめるしかなかった…!




ま、まさか………。




これって….笹原さんたちの……



嫌がらせ……!?




そう直感したら、足が震えてきてしまった…!!



「どうかした?鳴瀬さん。」



ハッ!!



いけない!!



ヤスさんが近付いてきたため、バン!と勢いよく扉を閉める!!



「あ、あの、私……。きゅ、急に用事を思い出したので、急いで帰りますね!!それじゃ、また!さよなら!」


「え!?鳴瀬さん!?急ぎって上履きのままだぞ?!」



ヤスさんが後方から声をかけてくれるけど、
私はそのまま振り返らず、校門まで駆け抜けていった……。






咲希の姿が見えなくなると、ヤスはひとり、呟いた。



「なんか変だな…。」



すると明るい声がとんでくる!



「ヤスさん!どうしたんスか?こんなところでボーッと突っ立っちゃってさ~!!」


准平が鼻歌を歌いながらやって来た。


「…准平。お前に頼みがある。」


「え!?なになに!?もしかしてケンカ!?ヤスさんに頼られるなんて俺もすてたもんじゃねぇ~なぁ~♪」



するとヤスは、さっき咲希が開けた下駄箱をもう一度開けてみた。



「ある意味、そんな単純なものじゃねぇかもしれねぇな…。」


「え?何が??」




ヤスは、これから起こる受難を感じ取っていた…。


空っぽになった咲希の下駄箱を見て、


“靴” ではなく、


本当に排除すべき “モノ” があると、


この時気づいたからだ。