結局、数学の時間は教科書を借りられなかったので隣の席の女の子に見せてもらった。



ノートは無いけど、ルーズリーフがあったから良かった…!





この日の授業は、数学以外の授業の教科書はあるから心配無いけど……。


でも本当にどこにいっちゃったんだろ…?


期末テストの範囲をやってるのに、授業の内容が全然入ってこない……。


こんなことで悩んでても仕方ないのにな……。



するとグラウンドから賑やかな声が聴こえてきた。



ん?


サッカー?



窓際の席だから、ここからだとグラウンドがよく見える。



赤いジャージを着てるから、一年生かな?




…………と、いうことは。




「おぉーーい、理人!俺にパスくれよ!!」


「ハハッ!お前はルール無視すっからボールはやんねぇよっ!」


「理人さぁーーん!!コッチ、コッチ!!俺にちょーだい♪」


「オイ!准平!!てめぇは敵ダロ!!なにこっちのチームに入ってんだよ!!」


「ちぇ!バレたか!!」



ふふ。やっぱり!



サッカーをしていたのは7組で、霧島くんや准平くんの声が聴こえてきた。


髪の色が目立つ人が多くて個性豊かなクラスなんだなと感じた。


特に霧島くんは背も高いから一際目立つ。



「理人さぁーーん!!コート上に、ボールが二個あるんスけどぉーーー!!?」


「あ?!んだと!!?そんなわけ…」


「ゴオォォーール!!!よっしゃ!!俺のチームの勝ちだもんね~~!!」


「准平ぇぇーーー!!!!てめぇダナ!?ボール勝手に増やしやがったのは!!?ヤス!お前審判なんだからコイツにレッドカード出しやがれッ!!!」


《理人、お前の持ってるボールの方がダミーボールなんだ。だから准平の得点は無効にはならねんだな、コレがよ。》


「だったらそれを早く言えよ!!!つーか拡声機使って話してんじゃねぇーー!!!耳が痛ぇんダヨ!!!」




クスクス…




私の教室からところどころで笑い声がもれていた。


確かに笑っちゃうよね!


さっきまで暗かった気持ちが和み、明るくじんわりと私の心に光が当たった。




「理人ぉー!!!頑張ってえーーー!!!」


「マジ、ウケる!!やっぱり理人とヤスっていいコンビだよね~~!!!」


「理人ってほんと、なんでも出来るんだね!!!」




キャーキャー




そんな黄色い声援も聴こえてきた。


男子はサッカーで女子はテニスみたいだけど、女子の何人かは男子のサッカーを観戦していた。



やっぱり霧島くん達って女の子に人気があるんだな~。



特に霧島くんは女の子だけじゃなくて、男女問わずみんなから慕われてるんだなと、改めてしみじみとそう思った。


なんだか、昨日や一昨日の霧島くんと一緒に過ごした時間が、まるで遠い昔のことのように思える。





「じゃあ~この問題を……鳴瀬!」


「……え?…あ、ハイ!」



わ!


うっかりしてた!!



吉田先生にあてられ、慌てて席から立ち上がって黒板へと向かった。




ところだった…。





「あれ!!?ピュア子ちゃんジャン!!!オォーーーイ!!!!ピュア子ちゃーーーん!!」



ん”!??



今……


准平くんの声が聞こえたような……!!?



「あれ!?まさかのシカト!?ピュア子ちゃーーーん!!!1年5組のそこの人ぉーーーー!!!」



ゲッ!!



い、嫌な予感が……。



教室の窓は全開なので、声がダイレクトに教室まで届く!!




するとクラス中が急にざわついた。


「え、ウチのクラス?」


「なんかすげー派手なヤツがこっちに向かって手を振ってんぞ!?」


「誰のこと??」



うっ…。


まさかとは思うけど……



私……だよね!??



「な、なんなんだ?!いったい??」


吉田先生も呆気にとられている……!!


「ピュア子ちゃ~~ん!!シカトしないでせめて手を振りかえしてってばぁぁ~~!!!オォーーイ!!」



は、は、恥ずかしすぎる………!!!!



こんな状況で応えられるわけないじゃん!!


クラスの中でちーちゃんと唯ちゃんだけは理解しているみたいで、
唯ちゃんはオロオロ……。


ちーちゃんは “チッ。” と舌打ちしていた…。




すると。




「准平ぇぇ!!!!てめぇ馴れ馴れしく咲希に手振ってんじゃねぇーーよッ!!
このバカッ!!」


と、霧島くんの声が聞こえてきた!


「あ、そっか! !“さき” ちゃーーん!!!ヤッホーー!」


「~~んのヤロオォーー!!!咲希って呼んでいいのは俺だけなんダヨッ!!!!てめぇは引っ込んでろ!!!」



ギャッ!!名指し!!



「さき…?うちのクラス??」


「っていうことは、女子?!」



クラスがどよめく!



どどどどうしようっ!!



私だってバレたらある意味痛すぎるッ!!



身が縮まる思いでその場に立ち尽くしていると……!






「なんだ。俺のことか!」




………………え。




クラス中の視線が一気に集まる。



それは吉田先生だった!



え!?な、なんで??



なんで吉田先生!?



吉田先生の名前って “さき” じゃないよね!!?


「まったく……いつの間に俺の子供の名前がバレたんだ?」


吉田先生はちょっと照れたような、でも嬉しそうにニヤニヤしている!!



ど、どういうこと!?



するとちーちゃんが思わず先生にツッコミを入れた!


「え”、吉先……吉田先生!なぜ自分だと!?」


「あぁ!それはな、実は一昨日俺の娘が見事産まれてな!!俺とかみさんとで決めた名前が “早希” なんだっ!!!可愛いぞぉ~~!!俺の早希!」



え!!早希!?



そうなの!!?



「ひいらぎいぃぃぃ!!!ありがとなあぁーーー!!!だが今は授業中だあぁぁ!!祝福は後にしてくれえぇぇ~~~!!!」


と、吉田先生は声を張り上げて准平くんに手を振りかえした。



「ゲッ!?な、なんで吉先ッ!!!??」



准平くんが面食らっていると!



「コラァー!!男子!!まったくお前たちは目を離すとすぐこれだ!特に、柊!!お前は退場だっ!!!」


と、准平くんに体育の先生のカミナリが落ちた…。



「え!!?なんで俺だけっ!!?」


「当たり前だろ!!このアホッ!咲希の勉強の邪魔しやがって!!!」






と、とにかく吉田先生が勘違いしてくれたお陰で助かった……。


ホッと胸をなでおろしていると、


「咲希!早く!解答しないと!」


と、一番前の席に座っていたちーちゃんが小声でそう促してくれた。


ハッ!


いけない、そうだった!!



急いでチョークを持ち、問題を解いていく……。



その最中でもグラウンドからの声は止むことはなかった。