盲点だった。
先輩に兄弟が居ることも、紘輝先生がお兄さんだったことも。
普通患者のこと他人に話すかな。
「何処まで知ってるんですか?」
「病気のことは全部教えてもらった。病状も治療法も」
先生、喋り過ぎ。
「そうです。私、余命宣告されていて死ぬんです」
一切表情を変えず、淡々と言葉を放った。
「手術で治るんだろ?まだ」
「そうですよ。まだ間に合います」
「だったらどうして「受けないか、ですか?」
誰もが不思議がるだろう。
治療法がなく、もがき続けている人も世界中探したらゴロゴロと出てくるだろう。
そんな人達からしてみれば私は可笑しな人なのだろう。
「父が過労で倒れるまで働いてくれてるんです。私が受けないって言ってるのに、父は働くんです。私の手術代を稼ぐためだけに」
先輩の顔がうっすらと歪んだ。
「だったらなおさら受けるべきだろ?」
「ダメなんです。受けて一定期間は治ったとしても、数年後に再発する可能性もあるんです。親の死目に会えるまで生きられる保証はないんです。それなのに父の努力を無駄にはできません」