「さっき兄貴から聞いた。なぁ、頼むからあいつと別れて俺にそばに居させてくれ」
彩羽の横に膝をつけると、手を握り締めた。
「あいつが考えてることはロクなことじゃない。お前の残りの時間をあいつにくれてやることなんてない」
「先輩、どうしたんですか?」
俺の手の中からすり抜けると、右頬に手を重ねてきた。
「なんだか寂しそう」
なんだよ、どうして自分より人の心配ばかりしてんだよ。
彩羽の手を再び握り締め、瞼を下ろした。
「寂しいよ。彩羽がこの世から居なくなると思ったら寂しい」
「先、輩・・・・・・」
「嘘だったんだろ?嘘で俺から離れていったんだろ?」
「どうしてそれを・・・・・・」
「拓海から聞いた。なぁ、あいつの婚約者のままでいいから“生きたい”って思ってくれよ」
「でも、私・・・・・・」
「いいじゃないか、他のことなんて何にも考えなくていい。ただ、“生きたい”そう思ってくれるだけでいい」
傍にいてなんて言わないから、未来を諦めないでほしい。