けれども何も、始まらない


「俺、理一さんが『こんな能力なければ良かった』って言ったら、それに反論したかったんです。勿論、能力があって苦労してきた――苦労はしてるんだろうなってのは判りますけど。……でも、ないよりはあった方がいいと思うんです」


ずっと思っていたことだった。小説や漫画で、自分の能力に悩む登場人物。とても強力な力を持ち、それに苦悩する人。そんな彼等に俺は不満を抱いている。


たかが小説、たかが漫画の登場人物。空想上の存在に何を、と思うかもしれないが、だからこそだ。随分と贅沢な悩みをしているように見える。


能力が暴走して無関係な人を大勢傷付けてしまった。そんな理由で自分の能力を嫌う人がいるが、そういう人は結局、周りに受け入れられるものだ。外見も中身も魅力に溢れた人達に。だったらそれは結局いいことじゃないか。


強力な力があって人間関係に恵まれていて、それでも普通に過ごしたいなぁなんて言って、普通が一番だなんて。それを望む人がいるのに――持たざる者の気持ちは判らない。


「やっぱり、得だと思うんですよ」