バタンッ

 その後はもう、必死だった――

「はぁ、はぁ!」

 走って、走って、彼の家が見えなくなるまで走って――すると気づいた時には、バス停をいくつか越えていた。

「はぁ、はぁ!」

 走って、走って、もっと走って。

 この想いが私から剥がれるように、
 この重りが私から落ちてくように、

 もっとずっと、遠くまで。

「はぁ、はぁ!」

 そして記憶さえも、消えてしまえばいいのに――そんなことを考えていた。