「成のこと憎んだりしないよ。琉生は、そんな子じゃないと思う」
あたしが言うと、成は首を振る。
「琉生に憎まれて当然だよ」
「成……」
「離婚のとき、親が俺にどっちについていくか選ばせたじゃん?」
お父さんについていくか、お母さんとおばあちゃんのいるこの町に残るか。
あの時の成は、相当悩んでた。
いくら親に決めていいって言われても、子供が親を選ぶのは、かなりつらかったと思う。
それに成と琉生は兄弟なのに、一緒に暮らせないことが決まった。親がひとりずつ引き取ることに決めていたからだ。
成がどちらを選んでも、琉生と引き離されてしまうのは決まっていた。
「当時まだ5歳だった琉生には母親が必要だったし、冷たい親父のことが琉生は苦手だった。どう考えたって、俺が親父と一緒に行くべきだったのに……。俺は色羽や華と離れたくなくて、ここに残ることに決めた」
「俺たちが……引き止めたからな」
あの時、悩んでいた成をこの町に引き止めたのは、色羽とあたしだった。
「でも最後に決めたのは俺だったから」
「後悔してんのか?」
「なんていうか……ただ、琉生とこんなふうになるとは思ってなかった……。でも全てのことが自分の思い通りにうまくいくなんて、そんなわけないよな」
そう言って成は、明るく笑顔を見せた。
「ふたりと離れたくなかった。だからこの町に残ったんだ。遠く離れても琉生の兄貴として精一杯のことをしていくつもりだった。でもそれは出来なかったなって思って」
「成……」
「親父と琉生が出て行ったあと、落ち込んでた俺にさ、色羽が言ってくれたよな」
「なんか言ったっけ?もう……忘れた」
色羽は、照れたように顔を背けた。
「覚えてるくせに~照れんなよぉ。“寂しいなんて思うなよ?俺もいる。華だっている。俺たちは成のそばから離れたりしねーから”って。あの時マジでうれしかった」
そう言った成は、笑顔のはずなのに、彼の瞳はどこか悲しそうだった。
「でも……琉生には誰もいなかったんだよな。寂しかっただろうな。俺が琉生をひとりぼっちにしたんだ」
あれから成がほとんど琉生の話をしなくなった理由が、今日やっとわかった気がした。
でも、もしあたしが成の立場だったとしても、
やっぱりここに残りたいって、そう思っただろうな。
大切なふたりと離れるなんて考えられない。
琉生もこの町に残って欲しかった。
あたしたちは琉生も残れるように成の両親に頼んでみたけど、ダメだった。
成の両親が話し合って決めたことで、あたしたちにはどうしたって大人の事情を覆すことは出来なかった。
「琉生は星が好きだったのに……親父と都会に引っ越したから、大好きな星さえも、ろくに見えないんだろーな」
「成……」
「琉生の大好きなものを、俺が奪ったんだよ」
生まれてからずっと、この町で生きてきたあたしたちには、
星がたくさん見えるなんて、あたりまえで。
それが幸せなことだなんて、ちっとも気づかなかった。
自分にはあたりまえのような世界が、
誰かにとっては
あたりまえじゃないことだってある。
失ってみて初めて気づくことは
たくさんあるんだろうなって。
改めてそう思った。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)