僕は店を出ると、「墓地」に向かって歩き出した。


暑い日だ。まのんちゃんが亡くなったのも、こんな暑い日だった。まのんちゃんは、暑くても長袖の上着を欠かさない子だった。その腕には、アームカットの生々しい傷痕がいっぱいだというまことしやかな噂も流れた。まのんちゃんの、時に放心したようなまなざしを見て、あれは薬のせいだという者もいた。実際に、まのんちゃんは精神科で目撃されていた。最期の方は、もう心が引きちぎられそうで、心なんてなかったら、安らかに死ねるのにと何度も思っていたかもしれない。


こんなに青く透き通った空の下を、花束を持って歩く喪服の男たちが前にいる。僕は足を速めて、その中で一番目立つスキンヘッドの男の頭を軽く小突いた。



「なんだ?!」


「気づけよ、僕だよ」


スキンヘッドの男――僕の親友、村上は、大袈裟に頭をさすってみせた。


「お前、俺を傷物にしやがって。責任とれ」


「バカ。男に言われても嬉しくないぞ。それに僕にはまのんちゃんがいる」


「俺にもだ」


「じゃあ言うな」


僕たちは、お互いに顔を見合わせていたが、笑いがついに爆発した。一周忌の時には、お通夜が一年続いているような感覚だったが、今や冗談も飛び出るようになった。時が癒してくれた傷とでも言おうか。


「みんな、元気そうだな」


花束を抱えたまま、僕たちはお互いの生存確認をした。三周忌の今年は、僕たちはもう大学生だったり、社会人だったりと立場は様々なのだが、まのんちゃんを恋しく思う気持ちだけは、みんな変わっていなかった。


「変わらないな。何もかも、変わらない」


「変わったのは、お前の頭の光具合だけだよ」


しんみりつぶやく村上を、僕はからかった。


「これは剃ってるんだ!禿げてないと何度言えばわかるんだ」


おしゃれがわからない野暮な奴は嫌だねえ、と村上は肩をすくめた。そして皆で笑ったあと、「墓地」へと歩き出した。