先生はまたいつかのように「煙草のついで」と言って下まで送ってくれた。

金曜の夜ともなると、いつにもましてひとけがない。

静寂の中にふたりの足音だけが響く。

別れ際、先生と私はあらためて明後日の約束について確認をした。

「おそらく洗車する暇はないと思うので……。あまりきれいでない車で行くことになりますが、すみません」

「私はぜんぜん気にならないので。どうか、先生も気にしないで下さい」

「助かります。必ず出るときには連絡しますから」

「はいっ、待ってます」

休日を先生と一緒にすごせる。

この本物の世界の、海へ行こうか山へ行こうか。

先生とならどこへでも。

「それではまた……明後日、ですね」

「はいっ、明後日」

「気をつけて」

「はいっ」

「あ、そうだ……俺、今夜はログインできないかもしれません。ホタテのカルパッチョを用意しておいたので食べてください」

「ありがとうございます。遠慮なくいただきますね」

「それじゃあ」

「はい」

すぐまた会える。休み明けを待たずに会える。

なのに――なかなかその場を去りがたかった。

それでも、こうしていてもきりがないし。

先生には大事な仕事も残っているから。

「それじゃあ、行きますね」

えいっと気持ちを切り替えて、元気よく門へ向かって歩き出した。