グッバイ・メロディー




こうちゃんが帰ってきたのは夜の10時きっかりだった。


すでに眠たそうな顔をしている。

おまけにものすごく、疲れた顔。


「おかえり。お疲れさま」


もうすっかり寝る支度を完了し、当たり前みたいに部屋に居座っているわたしを見て、こうちゃんは少しだけ驚いているようだった。

きょうみたいにいっしょに帰ってこなかった直近の3日間、おとといも、先週の木曜も月曜も、わたしは朝まで自分の部屋で大人しく過ごしていたんだから、そりゃそうか。


きょうでそんな生活も4日目。

そしてこれが、最後になる予定。


「デデン! 瀬名洸介くんに問題です。きょうはなんの日でしょう?」

「バレンタイン」


あんまり即答だったものだからびっくり。

すっかり忘れちゃっているんだと思っていたよ。


だって、先月の終わりに「レコード会社の人と会うから4日だけいっしょに帰れない日がある」と言われたとき、こうちゃんはなんでもない顔で“2月14日”も口にしたから。

ちょっとすねたような気持ちになって、今年はもうチョコ作るのやめちゃおうかなってどこかで思ったりもしたけど。


こうちゃん、ちゃんと覚えていたんだ。

ガトーショコラ焼いといて本当によかった。


「正解でーす。今年もいつものがあるので、早くお風呂に入って寝る準備をしてくださいっ」

「10分で戻ってくる」


ぽいぽいとコートや制服のジャケットを脱ぎ捨て、いつもののんびりさを100倍くらい早送りしたようなスピードで着替えをかき集めると、こうちゃんはダッシュでお風呂場に移動していった。


甘いものに対する姿勢が前衛的すぎるよ。

そういえば、「ただいま」すら言われなかったし。