グッバイ・メロディー



顔も名前も知らない人たちが、あまいたまごやきのライブを見て、音楽を聴いて、こんなに反応をくれているというの?

ほんとうに?


ああ、ほんとうに、ほんとうだ……。


こんな奇跡みたいなことが起こる時代にわたしたちは生まれたんだなって、なんだかファンタジーな気持ちになる。


「バズった最初のキッカケはこの人っぽいよ」


目にも止まらぬ速さで画面をタップしたはなちゃんが、ひとつのアカウントを表示して見せてくれた。


「もうこの時点でヤバイでしょ?」


流行りというものにとことん疎いわたしでもその名前はよく知っていたので、思わずひっくり返りそうになる。

はなちゃんの「この時点でヤバイ」という言葉に激しく同意せざるをえない。


関谷(せきや)マコトさんは、いまいちばん売れているロックバンド“カウンター・モーション”のギターボーカル担当の人。


アキくんと同じフロントマンだから、バンドのなかでも特に目立つところにいるし、作詞作曲を全部するから表舞台に出てくることも多い。

それに、ほかのアーティストに楽曲提供もしているというので、各方面から引っぱりだこの人気ミュージシャンだ。


特にわたしたち世代からの支持は圧倒的に高いように思う。

いくつものドラマや映画とタイアップしたり、CMで使われたり。

新曲を出すたびにチャート上位に当たり前のようにいるのは、もう何度も見かけている。


「なんでこんな人がこうちゃんたちを……」


純粋な疑問がひとりごとみたいにぽろりとこぼれると、はなちゃんも「ねー」と首をかしげた。