「寛人と、トシも誘う予定。洸介を先に捕獲しとかねーとウチの弟が来ねえから」
「なにそれ」
あきれたみたいな、だけど観念するみたいな。
これはきっと承諾する顔だ。
きょうは、けっこうアッサリ丸めこまれたな。
「わかった」
「それと」
こうちゃんの言葉を聞き終わるか終わらないかくらいで、アキくんが性急につけ足した。
「季沙はみちるさんのことも誘っとけよ」
あんまりいきなりすぎて、返事もできず、フリーズ。
隣のこうちゃんもギー子さんを弾く手を完全に止めた。
思わずこうちゃんと顔を合わせていると、ケースを着けていない黒いスマホから、「ちげーよ!」なんていう音割れ。
まだなんにも言ってないよ!
「そういや連絡先聞けてなかったなって。変な下心とかはねえよ?」
アキくんがからから笑った。
同時に、こうちゃんが小さく息を吐いた。
「ファン食いはしないって約束」
そんな単語がまさかこうちゃんの口から飛び出す日が来るとは思っていなかったからびっくりした。
こういう界隈にいると嫌でも耳に入ってくるフレーズ。
“ファン食い”は、バンドマンがファンの女の子に手を出しちゃうという、よく聞くアレだ。
けっこうそれでドラブルになって、解散までしてしまうバンドもあったりするらしい。
「食わねえよ! ていうかそう簡単に食わせてくれないだろ、あのオネーサンは」
アキくんがいろいろ弁明しているのをひと通り聞いたあとで、こうちゃんは「わかった」と静かに言い、通話を切った。



