仕方ないので隣に移動する。
こうちゃんはアコちゃんを傍らに置くと、すぐにわたしを脚のあいだに迎え入れ、背後から抱きしめた。
「なんだか不思議」
とくとく、とくとく、
背中越しに、規則的な心音がかすかに伝わってくる。
「なにが?」
「だっておとといテレビに映ってた人が、いまわたしのこと抱きしめてくれてるんだよ。なんかヘンな感じするよ」
「テレビはほんとにもういい」
声がいきなり低くなった。
テレビに罪はないんだから、そんなに嫌わないであげてほしい。
「でもさ、こんなに気軽に会いに来ちゃったりしていいのかな。こうちゃんって仮にも“芸能人”でしょ?」
むにむにとほっぺたをつままれる。
いつのまにか首筋に移動してきていたくちびるが、ちゅ、とかわいい音を立ててキスを落とした。
くすぐったくて、ぞくぞくする。
「べつに俺は恋愛禁止のアイドルじゃないし」
「たしかに、こうちゃん絶対アイドルに向いてないよ」
ファンサ最悪!
でもファンの女の子が怒るより先に、こうちゃんがノイローゼになってしまうかもしれない。
やっぱりこうちゃんは、バンドマンがいいよ。
ギターを触っているときがいちばん、いい顔をしているから。
わたしといっしょにいるときよりもぜんぜん幸せそうで、でもそんなこうちゃんが大好きだから、もうやきもちはやかないと決めている。
うそ。
やっぱりちょっとだけ、たまに、ごくたまーに、やきもちやいちゃうこともある。
それでも、いっしょにいられるときはこうしてわたしとの時間を大切にしてくれるから、もう怒らないよ。
許してあげるね。



