グッバイ・メロディー



もう体に染みついている癖みたいなしぐさで、膝の上にアコちゃんを抱える。


ギー子さん、ギタ美ちゃん、エレ吉くん、アコちゃん。

お行儀よくならんでいるみんなは、あのころからなにも変わらなくて、なんだか無性になつかしさみたいな、愛しさみたいなものがこみ上げた。


「なんか、意外とあっというまだよね」

「うん」

「もう1年が経つんだよ。あと1年したら、わたしも社会人だよ」

「うん」

「ね、こうちゃん、そしたら東京……わたしも、来ようかな」


けっこう本気の話を真剣にしているというのに、こうちゃんはずっとアコちゃんに夢中。

あんまり気のない返事をされるとなんだかな。
さっきからウンしか言わないの。


「もー。そんなだと来ないんだからねっ」

「ん、なに?」

「なんでもないでーす。こうちゃんなんてきらいでーす」


こうちゃんがすぐ傍にいない、新しい生活が始まって、もう1年。

変わったことは数えきれないほどたくさんあるけど、すぐすねてしまう自分は相変わらず健在で、我ながら悲しくなる。


「季沙。こっち来て」

「やだ」

「季沙」


たった1年前まではあきれるほどに聴いていた、こうちゃんの声で呼ばれる、自分の名前。

こんなにも特別な響きだったのだということ、離れて暮らすようになってから、はじめて知った。