「それに、きのうからちょっと疲れてる」
言いながら、こうちゃんが心底げんなりした表情を浮かべた。
5枚切りの食パン2枚分で作ったはずのフレンチトーストが、いつのまにかお皿の上からきれいに消えている。
なんとなく、食が太くなったような気がする。
「もしてかしておとといのテレビの話? お父さんとお母さんと清枝ちゃんと、みんなで正座して見たよ! 録画もばっちり!」
「ほんとにやだ……」
2日前、金曜夜にやっているおなじみの生放送の音楽番組に、あまいたまごやきの4人が出演した。
お父さんも清枝ちゃんも仕事だったけど、めずらしく、はりきって定時で帰ってきた。
そして、うちのハイビジョンテレビの前でみんなでならんで正座して、「動いた!」「しゃべった!」ともう大騒ぎ。
もちろんこうちゃんはほとんどしゃべらなかった。
カメラが近づくと顔を背けてしまう姿は、やっぱりブレずにこうちゃんという感じで、みんなで笑ってしまった。
「もう二度とテレビはやだ。カメラやだ。もういい」
「こうちゃん、ものすごい勢いで目が泳いでたもんね」
「知らない。もういい」
こうちゃんはお皿とマグカップをキッチンに運ぶと、からかうわたしをじとっと見て、部屋の真ん中に君臨しているふかふかのソファに移動していった。



