「あたしは、あたしの意志で、彰人のところに行くの」
反対側の視界の隅っこで、脇坂さんが煙草をくわえ、火を点けるしぐさが見えた。
思わず目をむける。
彼は、目を伏せ、鎖骨のタトゥーに指先だけで触れると、笑って小さくうなずいたのだった。
ああ、だめ、泣きそう。
それはアキくんも同じみたいだった。
マジでやめて、
と額にグーの手を当て、目をぎゅっとつむって、しんどそうに笑う。
なぜかはなちゃんがふうっと息をつき、そっとわたしの肩に頭を乗せてきた。
彼女もまた笑っていた。
どこか安心したような、とても穏やかな表情だった。
「誰か次、早くしゃべって」
嘆願するように言ったアキくんに、トシくんがめずらしく声を上げて笑った。
「じゃあ俺は、とりあえずおまえらの子守に勤しむよ。なにかあったときに精神的な支柱になれるように。俺にとって3人は、家族みたいな存在だと思ってるから」
バンドを選ぶために彼が選ばなかった、もうひとつの“家族”のことを思う。
胸が、きゅっとせまくなる。
いつも、なんでもなさそうに笑っているトシくんだけど、それは絶対、なんでもないことではなかったはずなんだ。
いつかご家族が、お父さんが認めてくれたらいいなと、勝手すぎることをついつい思ってしまった。
脇坂さんから引き継いだ新しいベースはもうすっかり手になじんでいるけど、お父さんに捨てられてしまったという初代のそれを、たまにとても恋しく思うことがあるんだよ。
みちるちゃんのむこうで、衣美梨ちゃんが静かに涙を流していた。
きっといちばん近くで彼のことを見守ってきた彼女は、わたし以上に思うことがあるはずだ。



