「……じゃ、帰るかあ!」
アキくんがむりやり元気な声を上げる。
「お疲れっす」
「じゃあまた」
「次は年明けか?」
バンドマンたちは成立しているようであまりしていない、宙に浮いているみたいな会話をぽわんぽわんと交わし、みちるちゃんやわたしにもお礼を言ってくれると、それぞれの帰路についていった。
「季沙、帰ろう」
さっきまでステージ上にいたはずのギタリストが、当たり前みたいにそんなことを言ってくれるなんて。
そう思うとどきどきしたけど、いまにも夢のなかへ行ってしまいそうなこの眠たい目、よく知っている幼なじみのこうちゃんだって思いなおす。
「おかえり、こうちゃん」
こうちゃんはなにを言われているのかよくわからなさそうにうなずいた。
「潰されなかった?」
「潰されない! 最近はコツ掴んできたから!」
はじめてのライブのとき、わたしがモッシュに負けて肋骨を折りかけたのを、こうちゃんはいまだにものすごく気にしているらしい。
「初っ端の『パノラマサイダー』よかったね。盛り上がったね」
つい1か月くらい前のスタジオで、こうちゃんとアキくんが遊んでいるみたいにして作ってしまった、あの曲。
でたらめだった歌詞にアキくんが魂を吹きこみ、みんなでアレンジをして、きょうのステージではもっとキラキラ輝く歌に姿を変えていた。
「うん、よかったと思う」
「CDは売れた?」
「100枚ちょっと余った」
絶対に売り切れると思っていたから信じられなくて声を上げると、こんなもんだよ、と冷静な返事。
そうかあ、こんなもんなのかあ、そう簡単にはいかないな。
むずかしいんだ。



