「季沙、こっち来て」
「こ、こうちゃん……」
ぎゅっとされる。
それと同時に、いままで我慢していた涙がいっきにぶわっとあふれ出した。
こうちゃんのにおいがする。
この世のどこにいるよりもいちばん安心できる、こうちゃんの腕の、内側の世界。
ああ、本当は離れたくない。
ずっと傍にいたい。
このぬくもりに包まれて、いつでも守られていたい。
「季沙、大丈夫。全部伝わってる」
だけど、自分で決めたことだから。
「東京に連れていきたいって言ってくれたの、ほんとに、ほんとにうれしかったよ」
「うん」
「こうちゃん」
「ん」
「大好き、こうちゃん」
泣きじゃくりながら何度も名前を呼ぶわたしに、こうちゃんは小さく笑った。
ぽすぽす頭を撫でられる。
もっと涙が出る。
不安がないわけじゃない。
むしろ、不安だらけで、いまにも全身が押し潰されそうなくらい。
きっと、東京についていかなかったことを後悔して、ひとりで泣く夜がたくさん来ると思う。
いつもみたいに涙を拭いてもらえないことに、こうして抱きしめて頭を撫でてもらえないことに、泣き虫のわたしは更にめそめそするんだろう。
こうちゃんが有名になっていくたび、どうしていま隣にいないんだろうとか、わたしは自分勝手にさみしく思うはずだよ。
でも。
それでも。



