「少し……考えてもいい?」
ふいに腕が緩む。
数センチ先にある瞳をまっすぐ見上げると、こうちゃんは真剣なまなざしを返してくれた。
「いっしょに行きたいって言ったけど……やっぱり、もう少し考えたい。もっと自分のやりたいこと、得意なこと、ちゃんと探して、わたしもこうちゃんみたいに夢を見つけたい。それでね、堂々と胸を張って、こうちゃんの隣にいたいの」
こうちゃんが小さくうなずいた。
「俺も」
強かった瞳に、どこかためらいにも似た色が宿る。
やがてその顔はどんどん近づいてきて、すぐにおでことおでこは優しくくっついた。
「季沙、ごめん」
「こうちゃん……?」
かたちのいい、薄いくちびるが、遠慮がちに動き始めた。
「俺は季沙が思うよりずっと、季沙がいないとなにもできない、ダメなやつだよ。でもだからといって、もう季沙の傍にいるために音楽をやめる覚悟も、勇気もない」
「……うん」
「俺は、俺のために季沙を東京に連れていきたいと思った。それは季沙じゃなく俺のわがままだってこと、わかっておいてほしい」
こんなに泣かせてごめん、
と、こうちゃんはとてもつらそうに言った。



