「東京に行きたくないなら、そう言っていい。ひとつでも不安があるならそう言ってほしい。俺は季沙を無理やり連れていきたいわけじゃない」
「ちがうの」
「うん」
もう間違えたくないよ。
こうちゃんに、無理をさせたくない。
世界でいちばん大好きな、誰よりも、なによりも大切な存在にとっての、負担になるのが自分だなんて、そんなのは絶対に嫌だ。
「わたし、が」
「うん」
「わたしがこうちゃんの重荷になりたくない。心配事の種になるのは、いやなの」
ふっと腕がゆるむのがわかった。
このまま突き放されて、その通りだと言われてしまったら、もうわたしはこの場で死んでしまうかもしれない。
だけど、いっそそう言ってくれたら、楽になるのかな。
あきらめも、つくのかな。
「重荷じゃない」
だけどこうちゃんはもういちど、ぎゅっと、さっきよりもうんとうんと強くわたしを抱きすくめると、きっぱりと言ったのだった。
「だから、泣かないで」
わたしね。
本当はずっと、こうちゃんに劣等感を抱いていたんだ。
大好きで、憧れで、自慢で、誇らしくて。
それと同じくらい――嫉妬して、卑屈になって。
こんなにもまぶしいこうちゃんの隣に、こんなにも凡庸なわたしなんかがいてもいいのか、考えれば考えるほどわからなくなって、本当は怖くてたまらなかった。
いまだって、そう。
ずっと、そうだった。
こうちゃんが絶対的にそう思わないと言ってくれたとしても、どうしても、思ってしまうんだよ。
だって、わたしには、なにもないから。



